哀悼 ブラジルに生きた映画人 Héctor Babenco


映画監督、
プロデューサー・脚本家でもある、

Héctor Babenco(エクトール・バベンコ)

2016年7月13日、
副鼻腔炎感染症の治療のために入院していたサンパウロの病院で、
心臓発作による心肺停止のため亡くなった。

享年70歳。



UOL より
2016.07.13_01 哀悼 ブラジルに生きた映画人 Héctor Babenco



バベンコ監督は、
1946年2月7日、アルゼンチン、ブエノスアイレス州の海沿いの町で生まれ、
ヨーロッパを放浪した後、’69年からブラジルに定住。
映画人としてのキャリアを、ブラジルで積んでいった。
1977年にはブラジル国籍を取得、名実ともにブラジル人映画監督となる。


今年3月に公開されたばかりの、
“Meu Amigo Hindu” (My Hindu Friend)
が、図らずも遺作となってしまった。



ADOROCINEMA より
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自らの脚本によるこの作品は、
進行した癌に冒されたサンパウロ在住の映画監督が主人公。
治療のためアメリカの病院に入院した彼は、
そこで同じ治療を受けている8歳のインド人少年と出会い、徐々に友だちになり、
幻想を共有することで苦しい治療の時間を和ませる。

主人公が映画人であることや、
エクトール・バベンコ監督ご自身、‘90年代初頭にリンパ癌に冒され骨髄移植を受けた経験があることから、
自伝映画に見えるが、
ご本人は “自伝ではなく、自分の闘病の記憶をヒントにしたフィクションである” とおっしゃっている。

主人公である闘病中の映画監督を演じているのは、
特に悪役で謎めいた存在感を発揮するアメリカの名優、ウィレム・デフォー。
彼以外は、ほとんどブラジル人女優俳優陣ががっちり周りを固めている。
が、全編英語。

ポルトガル語吹き替え版で観たら、
こちらのTVでお馴染みの俳優たちが英語で演じる口の動きに、ご本人のポルトガル語が乗る、
という、なんともくすぐったい感触だった。

印象的なラスト・シーン。
羽衣のような薄布をまとった女性が、主人公の前で踊る。

この女性を演じる女優は、TVドラマでも一癖ある印象的な役の多い Bárbara Paz(バルバラ・パィス)。
射抜くような強い目と、それとは対照的な油断した子供のような笑顔。
表情だけで演じられるすばらしい女優だ。



gente.ig より
エクトール・バベンコ監督とバルバラ・パィス
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彼女は、エクトール・バベンコ監督の3人目の奥方。
2010年に結婚、4年後に一旦別れたが、また復縁した矢先の監督の死だった。


‘80年代後半から2000年頃までは、
ジャック・ニコルソンとメリル・ストリープ主演の “Ironweed” (日本語タイトル:黄昏に燃えて)など、
(個人的には、トム・ウェイツのハマリ役がグッ!とくる)
ハリウッドでも何本かメガホンを取っている。



popdose より
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この監督の作品には2度、強烈な衝撃を受けた。


一度目は、
ブラジルも含めた南米の知識もほとんどなく、足を踏み入れたこともなかった頃。

1985年公開の、
“O Beijo da Mulher-Aranha”(日本語タイトル:蜘蛛女のキス)



Wikipédia より
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舞台となっているのは、アルゼンチンはブエノス・アイレスの刑務所。
荒んで薄汚れた牢獄で同房になった二人の会話を中心に展開していく。

が、
主役の二人を演じるのは、
アメリカのウィリアム・ハートと、アメリカで活躍したプエルトリコ人の故ラウル・ジュリア。
随所に重要な役割で登場する女性3人を一人三役で演じているのは、
当時すでに国民的大女優で、その後は度々ハリウッド映画にも登場する、ブラジルのソニア・ブラガ。
獄中でゲイの主人公が語る映画の舞台は主に、ナチス台頭中のフランス。
に加えて、ほぼ全編英語。
なので、ブエノス・アイレスが舞台でありながら、国や地域を超えた、無国籍感が漂う。

原作は、
1976年に出版されベストセラーとなった、アルゼンチンの作家マヌエル・プイグによる同題の小説。

権力の、人の心を無視した横暴さ。
そんな理不尽に翻弄されながらも、ひたすらピュアな愛に生きた、ゲイのモリーナ。
いつも心の隅に人生の空虚さや哀しさを抱えつつ、
モリーナには興味のない社会革命活動に人生を捧げて闘っているヴァレンティンへの、
死をもいとわない純粋な愛にたぶん、
若き日の私はヤラレたんだと思う。

1985年の公開後も、DVD を入手して折りにふれ繰り返し観てきたが、
バベンコ監督の訃報を受け、先日また鑑賞。
30年ほどの時間が自分の中でも外でも流れたが、このせつなくも美しい愛にはやはり、グッとくるのだ。


話は変わって、、、、、
ブラジルで起きた現実の事件。

1992年10月2日
サンパウロのカランジル刑務所9号棟。

囚人たちの暴動鎮圧のため刑務所に踏み込んだ Polícia Militar(軍事警察)が、
Coronel Ubiratan Guimarães(ウビラタン・ギマラィンス大佐、2006年に暗殺された)
の指令により無差別に発砲し、
結果、収監されていた111名が亡くなった。
負傷したまま逃げた囚人たちもカウントすると、250名以上が亡くなった、という証言もある。

この事件は、”Massacre do Carandiru”(カランジル虐殺事件)と呼ばれ、
重度の人権問題として国際的にも大きな非難を浴びた。

のみならず、
音楽やTV番組などなど、国内外の多くの文化人たちに題材として取り上げられている。

この事件について書かれた本も多いが、
中でもベストセラーとなったのは、
Dr. Drauzio Varella(ドゥラウズィオ・ヴァレーラ医師)の著書。



“Estação Carandiru”(カランジル・ステーション)
Wikipédia より
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癌を専門とするヴァレーラ医師はエイズの研究にも心血を注ぎ、
1989年から、ボランティアで、
カランジル刑務所に収監された囚人たちの、エイズ予防に重点を置いた健康管理をしていた。
現在も現役の医師・研究者であり、執筆家、医療・医学のジャーナリストとしても活躍されている。
TVでも、身近な病気や医療現場の問題をわかりやすくリポートしてくださる。



Dr. Drauzio Varella(ドゥラウズィオ・ヴァレーラ医師)
Wikipédia より
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1999年に出版されたこの本には、
ヴァレーラ医師の目を通して見た、虐殺事件に至るまでのカランジル刑務所の日常が綴られており、
エクトール・バベンコが、監督・プロデュース・脚本も手がけて、映画化された。

2003年公開の、
“Carandiru”(カランジル)



Wikipédia より
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エクトール・バベンコ監督作品、2度目の衝撃は、ブラジル移住後に観たこの映画。


ひたすら陽気でお祭り騒ぎが好きで奔放に生きているブラジルの人々の奥にある、暗部。
現在は大統領制による民主主義国家であるが、
1985年まで続いた軍事政権体制は、実は今も色濃く残っている、
ということに気づきはじめ、
庶民の命がとても軽く扱われ、人々もそれに慣れている、ということにショックを受けた。
頃に観た、衝撃。

現在も、刑務所の暴動は日常茶飯事だ。
刑務官たちも、自分や家族の身を守るため、携帯や武器、酒やドラッグなどの持ち込みを容易に許してしまう、
という背景もあるし、
刑務所内の管理も教育も行き届いておらず、収容人数が定員を大幅に超えている、不潔で劣悪な環境、
という背景もある。
どちらにせよ、問題の根本は、行政にある。


エクトール・バベンコ監督作品の中でも特に強いインパクトを受けた上述の2作品に共通するのは、
舞台が劣悪な環境の刑務所であること。
そして、
なんとも言えぬせつなさを湛える魅力的なゲイが登場すること。

“蜘蛛女のキス” のモリーナ役、ウィリアム・ハートも、
“カランジル” の レイディー・ヂー役、ホドリーゴ・サントーロも、
幾多の映画やドラマで活躍する名優中の名優だが、
これらバベンコ作品中の二人は、それぞれ、ホントにすばらしい!
キューッとなる。



Nick’s Flick Picks, THE DIGITAL FIX FILM より
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小さな世界に生きる登場人物のこころを通して、その向こうにある大きな社会を映し出す。
厳しい環境の中にも、ほんわか温かいものが湧き上がってくる。


亡くなられたエクトール・バベンコ監督は、
始動中のプロジェクトやこれからの展望もいろいろ抱えていらしたという。

今後、新たなバベンコ作品に出会えなくなってしまったのが、とても残念である。






13 de julho de 2016
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